本当は凄かった、日本の喫茶店


前回の日本滞在中にいくつかの重要な再認識を得る事ができた。それは昔から多く存在している日本の喫茶店、特に豆の焙煎を手がける自家焙煎型店舗の実力と、彼らを背後で支える日本の商社の存在に関して。大きな感動を伴ったこの「発見」は、どうしても多くの日本人達に伝えたい事実なので、あえてブログに書かずにはいられない内容なのである。

おそらく昭和の初期から、少なくとも僕が知る限りでは昭和34年辺りから日本中に自家焙煎型の珈琲店が多く出店されたが、残念ながら現在でも営業を続ける店舗は相当減ってしまっている。僕がアメリカに移住する1989年時点で、自分の活動範囲だった目黒区、渋谷区、世田谷区、新宿区界隈では、記憶にあるだけでも数十件のこれらの店舗があったはず。それに対して今確認できる自家焙煎型珈琲店はたったの一軒しかない。その店は東横線新丸子駅近くにあって、たまたまカミさんに紹介されて入ってみたこの店、僕が理想とする「珈琲屋さん」の全てを兼ね備えている素晴らしい内容だった。

全ての豆は自家焙煎されて、ガラスの瓶に保管されている。その焙煎度合いは、それぞれのコーヒー豆の特性を熟知した上で、そのポテンシャルを最大に発揮すべく固有の焙煎度合いを見出して、丹念にしかも丁寧に焙煎されている事が判る。シングルオリジン系の豆が6種類ほどあり、店舗オリジナルのブレンド系が5種類。その中にフレンチロースト(深煎り)もあったりするが、基本的には浅煎りから中煎りの間で仕上げている。ムラのない丁寧な焙煎技術が自慢の一つ。そしてこういうお店が扱うコーヒー豆の凄いところは、そのシングルオリジンの品揃え。「ブルーマウンテン」「キリマンジャロ」「コナ」「モカ」等という銘柄が普通に存在している事。アメリカに住んでコーヒー業に関わっているとよ〜く判る事なんだけど、こういう銘柄(産地)って当地では絶対にお目にかかれない種類で、世界中でも日本やヨーロッパの一部でしか飲む事が出来ないものなのだ。つまり上記のような銘柄は生産量が少なく、しかも気候や地形的な条件から非常に限られた生産量なので、そもそも希少価値の高い豆である事。だから決して安くもない。歴史的に長い間これらの生産者や彼らの販売代理人達との有効な取引関係を築いてきた日本の商社だからこそ、継続して安定購入する事が出来ているという事実がその背景にはある訳で、一般日本人は実はこの事をあまり知らないようだ。彼らの取引はおよそ70年近くの歴史に支えられているからこその信頼関係に成り立っている。だから、この20~30年くらいでやっとSpecialty Coffeeという分野を勧めてきたアメリカごときの新参者が、軽々と入り込めるテリトリーではないのだ。

コーヒーの淹れ方は、ネルドリップ、フレンチプレス、サイフォンの3通りで、エスプレッソ系の淹れ方は一切しない。そもそも機械が置かれていないのだ。良いじゃないか! 何も言わないが、「ラテやカプチーノだの、流行りのコーヒードリンクを飲みたけりゃ、よそへ行きな!」と言わんばかりの強烈なメッセージが店内中に充満している。

食べ物のメニューがまた「痒いところに手が届く」ような、絶妙なライナップなんだなぁ。まず、最近のスタバ系の店には絶対ないのがホットドッグ。しかも日本製の粗挽きウィンナーを使用するやつ。良いとこついてるよね! その場で作るフレンチトーストとかサンドイッチ類。どっかの工場で作って日に一回だけ持って来るやつじゃない。そして絶対外せないのがコーヒーゼリー。

これってビジネスモデルとか潜在的な可能性という観点からすると、途轍もないポテンシャルを秘めているのは明白で、やり方次第では「街の喫茶店が世界に打って出る」事だって夢話ではないはずだ。言い方を変えれば、日本の喫茶店は「磨けば煌るダイヤの原石」のようなビジネスなのかもしれない。そこに必要なのは、やる気、ちょっとの言語力、ブランディングとマーケティングのノウハウ、そして経営者の道徳観辺りだろうか。

いやあ、頑張ってほしいなぁ、「コーヒージャパン!」

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