ブルーボトルブルース


今年の3〜4月ごろに2ヶ月ほど日本に居ることがあって、久しぶりの日本だったので色々なコーヒー屋さんを試す機会があったんだけど、結局シアトルに帰る直前にはなんとも複雑な心境になる結果を招くという「微妙」な体験となった。それは感動と憤りと期待と絶望が入り混じった、やり場の無いなんか重たい心境で、人類社会に潜在する深い闇の深淵を垣間見るような、そんな気持ち。分かるかなぁ? 今日は、だいぶ時間が経ってしまったけれど、なぜそんな気持ちになったかをちょっとだけ書いてみようかなっと。

僕が住むのはアメリカのワシントン州、シアトル市のすぐ近くで、マーサーアイランドという島。シアトルといえばスタバの発祥の地でもあり、多くのコーヒー屋さんがしのぎを削るコーヒービジネス激戦区でもある。アメリカではすでに廃業してしまったがあのタリーズコーヒーもここの始まりだった。そんな土地柄多くの高品質コーヒー豆の焙煎業者が存在している。今や世界的に有名になったポートランド市発祥の名店Stumptown Coffee Roastersも、早くからシアトルに進出して大成功を収めている。そんな土地だけど、なぜかベイエリア(サンフランシスコ市近郊のこと)から世界に広まったあの有名店「Blue Bottle Coffee」はいまだにシアトルには来ていない。考えてみればそのこと自体ちょっと不思議だね。

なので僕はBlue Bottle(BB)のコーヒー(淹れられた液体の方)は日本に来るまで飲んだことが無かった。メールオーダーで同社の豆は試した事があったが。そのことはまた後日のブログにするとして、ここでどうしても書きたいのはBB社のコーヒーに関してなんだ。

東京で寄ったBB店舗は青山1丁目辺りのお店だったが、まず驚いたのは、土曜日の午後だったという事もあり驚愕の繁盛振りだったという点。そして次に驚いたのは、その客層の半数以上が中国人なのだという事。僕とカミさんが店に入ろうとすると、2回の店舗から溢れた待ち客が、少なくとも30人は階段を埋めるように溢れていた。その繁盛振りたるや、あたかもスタバの渋谷店がスクランブル交差点に開いた時の再現を見ているような錯覚になるほどだった。日本人がコーヒー好きなのは知っていたつもりだが、今や4千年以上の茶の湯の文化を誇る中国人までもが、アメリカから来たブルーボトルコーヒーを味わおうと20分以上も行列を作る時代になっているのにまた驚く。因みに、順番を待つ中国人のマナーの悪さと来たら、、、おっと、ここでは止めとこうか。

およそ20分ほども待ってからやっとオーダーの番が来たので、店員とのやりとりの結果で僕が選んだのは、エチオピア産のナチュラルプロセス、12オンスカップのハンドドリップ。さてここでブログの本題、核心の一部に入る訳だが、ジャジャーン、出されたコーヒーの味のいかに不味かったことか!! ゲホホッ! ビエーッだ!!! それまでの全ての期待を見事に裏切って、はっきりいってスタバ以下かとも思えるような、見事なその不味さたるや!! その時のコーヒーには基本的に2つの決定的な問題がある事が即座に分かった。一つはコーヒー豆とお湯の比率。なんとその店では12オンス(およそ300 ml)のお湯に対して、なああーんと驚き(whopping)の28グラムのコーヒー豆を使うというのである(これは店員と話して確認済み)。ハンドドリップを普段飲まない人にはこの比率の意味はサッパリ分からないのかもしれないが、これはなんと10:1という比率で、それってつまり、異常なほどの濃さ(strong)を意味している。正直言って正気の沙汰とは思えない。物事には節度や程度というものがあるが、コーヒーの淹れ方において10:1は常軌を逸している。どんなに上質のコヒーでも、この淹れ方をしたら美味しい訳がない。案の定、出されたコーヒーは泥水のような質感の「苦さ」の凝縮液だった。数分の放心状態を経て店員に尋ねた。「これ、淹れ方間違ってないよね?」「はい、いつもの通りでございます」

泥水を片手に椅子に座り店内を見渡してみると、どうやらほとんどの客はエスプレッソ系のコーヒー、つまりラテやカプチーノやらを飲んでいる様子。やはりいまだにそっちが主体なのか! 要するにブルーボトルに来る客は、実はコーヒー通なんかじゃ全然無く、都会のおしゃれな場所にある流行りのお店で「通」を装いたいだけの、「お上りさん達」や「なんちゃってコーヒー通」なのに違いない。これ結論。

これは余談だが、かつて世界最高レベルと言われたコーヒー焙煎業社の「Tonx Coffee」がBBに買収されてからすでに数年経つが、彼らの最高傑作「Beta Blend」も吸収後は日常の商品ラインから外されてしまった。現在のBB店内を見ても分かるが、彼らが扱うコーヒー豆だって決して銘品と言われるような高品質のものばかりでは無い。でも値段は強気の高めの設定。こんなボッタクリコーヒービジネスを世界に広げるために、あのTonxの有志達が買収されてしまったのかと思うと、ああ、怒りと焦燥感、そして人類の未来を憂う一抹の絶望感が。うっ、うっ、乱れる呼吸のせいか、手の中の泥水を半分も飲めずに、僕らは店を出た。

考えてみりゃ、エチオピアのコーヒー農家の方々も気の毒だ。済みません!!僕から代わりにお詫びいたします。コーヒー道を無視して金儲け主義に邁進のアホなアメリカ人と、そいつらに踊らされる多くの無知なアジア人たちをお許し下さい! 彼らは何も知らないのです。あのスタバだってまだ流行ってるもんね、ねっ、ねっ。これが世間というものだ、残念ながら

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